下肢静脈瘤とは
静脈瘤とは、皮下の静脈が太く浮き出てくる、あるいは瘤(こぶ)のように膨らんでくる病気です。これが足に出てきた場合、下肢静脈瘤と呼びます。軽症の人から重症の人まで程度の差はありますが、非常に多くの人に見られる疾患です。
下肢静脈瘤は、太さや部位により次のように分類されています。「大伏在静脈」「小伏在静脈」自体が太く浮き出ているものは「伏在静脈瘤」と呼ばれています。下肢静脈瘤が気になって外来を受診される患者さんの大多数がこのタイプです。静脈の一部分だけが拡張しているものは「側枝静脈瘤」と呼ばれています。この静脈瘤より細く、太さが2~3mmくらいで青色のものは「網目状静脈瘤」、さらに太さが1mm以下で紫色のものは「クモの巣状静脈瘤」と呼ばれています。
原因
皮膚に供給された血液は、「大伏在静脈」と「小伏在静脈」を経由し、「膝窩静脈」「大腿静脈」を通って心臓の方へ押し上げられます。この血液を押し上げるポンプの働きをするのが、ふくらはぎの伸縮です。押し上げられた血液は、そのままでは重力により足の方に戻ろうとしますが、静脈には弁があり、血液の逆流を堰き止めています(図3)。従って、通常、「大伏在静脈」「小伏在静脈」から、「大腿静脈」「膝窩静脈」に血液は流れ、逆流はほとんど見られません。
しかし、静脈の弁が何らかの原因で機能しなくなると、反対方向に血液が逆流してしまいます(図4)。その結果、「大伏在静脈」「小伏在静脈」が拡張し、下肢静脈瘤となっていきます。静脈の拡張によって、弁の隙間がさらに大きくなると、上流の弁の機能不全を助長することになり、下肢静脈瘤が一層悪化していきます。静脈瘤が徐々に目立つようになるのはこのためです。
では、なぜ弁が機能しなくなるのでしょうか。このことに関してはいろいろな説があり、はっきりしたことは判かっていません。ただし、両親が下肢静脈瘤であった人に多くみられることから、遺伝的素因が考えられています。つまり、先天的に弁が欠損していたり、静脈の壁が脆かったり、動脈・静脈間に交通があったりすることが原因と考えられています。また、このような先天的な原因に加えて、長時間の立ち仕事や妊娠、肥満、加齢なども、下肢静脈瘤の悪化の原因になります。また、青色の「網目状静脈瘤」や紫色の「クモの巣状静脈瘤」は、血液の逆流だけではなく、女性ホルモンも関与していると考えられています。
症状
逆流した血液がふくらはぎに停滞するため、足が重苦く、疲れやすくなります。また、女性の場合にはホルモンの関係で普段から足がむくみやすいのです が、それが顕著になります。また、夜間に突然、足がつる(こむら返り)という症状も現れます。進行してくると慢性的な湿疹が出てきて、痒みを伴うようになります。さらに進行すると皮膚の色が黒ずみ、硬く光沢を帯びるようになります。このような状態まで進行すると、わずかな傷でも治りにくくなり、皮膚に潰瘍を形成するようになります。 以上のような症状がない場合でも、血管が浮き出て気持ちが悪い、人前で足を出せない、スカートがはけないといった美容的な面もあります。
診断、検査
ドプラ血流計を用いて、「大伏在静脈」「小伏在静脈」に逆流が生じているかどうか診断します。逆流がある場合には、足の付け根や膝の後ろで逆流音が聴取できます。さらに、カラードプラ超音波装置を用いて、「大伏在静脈」「小伏在静脈」の太さや逆流の程度を検査します。逆流が強い場合には、静脈は拡張して太くなり、逆流している時間も長くなります。また、「交通枝」の部位や太さについても調べます。いずれの検査も皮膚の表面にゼリーを塗るだけで行いますので痛みなどはありません。進行した重症の静脈瘤の場合には、さらに詳しく静脈の流れを見るために、静脈造影やCT検査が必要になることがあります。その際には注射に伴う痛みやアレルギー反応が出る場合があります。